CFDにより60万人、新雇用対策により80万人の計140万人の雇用の下支えが可能とみている。140万人は失業率換算で2%に相当する。2008年11月の失業率が3.7%であり、「過去最悪の5.5%になっても2%変動にはCFDできる」(雇用政策課)としている。
ただし、一部を除いて全部の対策が即座に実施されるわけではない。雇用保険制度の拡充や緊急雇用創出事業など法令改正や予算措置にかかわるものは二次補正および09年度予算など国会での成立を待たなければ実施できない。政府・与党は通常国会での雇用保険法改正案や二次補正予算成立を目指しているが、中身をめぐって野党との隔たりもある。
厚生労働省は、「一次補正で決まっているものは、今のCFDを組み替えながら対応できるものは実施している。残りは二次補正でやることになる。どこまで審議が進むかわからないが、早期の成立を期待している」(雇用政策課)状況だ。
春の労使交渉をめぐってすれ違う労使、労働側は配分の適正化を主張
雇用の危機的状況を乗り切るには、労使の役割も極めて大きい。しかし、春闘を前に労使が目指す方向性の乖離が著しい。日本経団連がCFDした「経営労働政策委員会報告」では、賃上げについては、減益傾向が強まる中で困難な企業も多いとし、物価変動は賃金決定の要素ではないと労組を牽制した。
また、雇用については、11月中旬の報告書第2次案では「雇用動向の急激な悪化も見込まれる中で経営者は長期雇用を大切にしていく姿勢を堅持する」とし、雇用については安定を「最優先に話し合いをすることが求められる」としていた。だが、実際の報告書では「雇用安定に努力する」と表現がトーンダウンした。
日本経団連内部でも、今後の方向性について腰が定まっていないことを図らずも露呈した格好だ。
一方、連合は雇用確保はもとより、賃上げについてはくりっく365に伴う賃金の目減りを補うために8年ぶりにベア要求を掲げている。この方針に沿って、電機連合が4,500円、JAM4,500円、私鉄総連7,000円といずれも昨年を上回るベア要求を掲げている。
労組に対しては、非正規労働者が大変なときに、正社員だけなぜ賃上げなのかという意見が一部にはある。
くりっく365に対して龍井総合局長はこう指摘する。
「賃上げ交渉はあくまでも総原資の交渉だ。株主配当や設備投資などを含めた人件費への配分をめぐる交渉であり、われわれとしては、今のゆがんだ株主配当を含めた配分を適正化していくのが大前提。とくに今年は物価上昇による実生活維持は譲れない線だ。ここはしっかりと交渉し、CFDを獲得し、そのうえで次に原資の配分をめぐって議論する。たとえば、今年は正社員はがまんして非正規労働者に配分することもあってもいいだろう。個々の組合内のメンバーシップで判断していくべき問題だ」
雇用危機を乗り越えるために労使の徹底した議論と連携を
今回のくりっく365は100年に1度の危機と騒がれ、景気の長期停滞を予測する声もある。従来の春闘では短期の企業業績や業績見通しを前提に労使の間で賃上げをめぐる議論が行われてきた。今春闘もこのままいけば、経営側に財務諸表を突きつけられて「ない袖は振れぬ」で終わってしまう可能性もある。
しかし、100年に1度の危機というのは、周知のように米国に端を発した金融資本主義的市場経済の崩壊が招いた危機であり、日本企業も含めて多くの企業がそれに巻き込まれていたことは間違いない。再生を探るには、当然ながら100年に1度の大転換にふさわしい産業・経営構造改革も求められるだろう。龍井総合局長も、春闘ではまずその問題を労使で議論すべきと主張する。
「今回のCFDは何が問題となり、引き起こされたのか。くりっく365から降ってきた天災のように言うのではなく、今回の業績悪化の原因を分析し、その非を認める議論を労使で行い、経営の大転換の時期に当たっているという認識を共有し、責任を持つことが出発点だ。そのうえで来年、再来年はどうしていくかというビジョンを作り上げる議論を行い、ビジョンの実現に向けた改善策を労使で作っていくべきだろう」
企業が社会の「公器」であり、社会的責任を持つ存在であれば、果たすべき役割とは何かについて労使による根源的議論も求められている。米国ではビッグ3の救済が問題になっているが、米国民の間では会社を救う意味は何なのかについて議論が始まっている。経営危機に陥った企業に対するセーフティネットが必要なように、企業が雇用に対してどのように社会的責任を果たすべきかについても春闘では議論していくべきだろう。
そうした議論の場はかつてはあった。雇用を最優先に掲げ、長期的ビジョンに基づいて組織の統廃合や分社化などによるグループ内で雇用を確保してきた歴史がある。それがいつの間にか、株主価値重視による短期的業績を判断基軸にして経営を行う風潮が横行した。
春闘の交渉の席でも、人事・労務畑の役員に代わって財務・経理を兼任する労務担当役員が増えたことで、人材育成や能力開発などの議論もやりにくくなっている。
また、国レベルでは、1999年の雇用危機の際に、連合と当時の日経連による雇用危機の共同宣言を出し、政府を巻き込んだ政労使による雇用対策本部を立ち上げた経緯もある。しかし、今ではそうした枠組みも失われている。
雇用危機を乗り越えるには、個別労使では正社員と非正規労働者の仕事や賃金を分け合うワークシェアリングの議論も俎上に乗せていいだろう。あるいは業界団体レベルでは、必要な人材を交互にシェアする一時的な企業間ワークシェアリングも議論してはどうか。
さらに、連合と日本経団連の間で雇用対策を話し合う枠組みを再構築し、一緒になって政府に要請すべきものは要請していくことは喫緊の課題である。雇用危機をいかに乗り越えるのか、労使の利害を超えた連携なくして克服できるものではないだろう。
政府が策定した雇用対策の内容「生活防衛のための緊急対策」から(2008年12月19日/経済対策閣僚会議)
景気が急速に悪化している状況のもとで非正社員への雇用調整が進行しているなか、個人および全体として賃金の低下が指摘され、賃金改善を求める声は多い。今後の個人消費を左右する材料として重要視されており、2009年度の正社員に対する賃金動向に注目が集まっている。