資産運用とは

(1)国内機関投資家 資産運用の多くは,議決権行使についての運用基準を定めて公表しているが,海外の機関投資家に比べて機械的に数字をクリアしたかどうかのみに頼らず,実態面を考慮したうえで判断している。国内の事情を理解しており,より会社説明に合理的な資産運用を加えられる反面,“現業部門”が投資先と親密な証券会社や生損保などが機関投資家である場合,営業上の配慮も働いている。 とはいえ,近年は厳密な数値基準にシフトする傾向が顕著で,本年度も総会シーズンを前に,下記【図表3】のような議決権行使基準の強化が報告されている。 このほか企業年金連合会(資産運用13兆円)は議決権行使にも積極的に関与しており,連合会による「コーポレート・ガバナンス原則」(※2)や「企業買収防衛策に対する株主議決権行使基準の改定について」(※3)などは国内投資家の判断基準の参考となっている(企業年金連合会のスタンスは後述)。 (2)海外機関投資家 「企業の真の所有者は株主」という前提に基づく要求姿勢が顕著。特に買取,以下の2点の認識は必須である。 ブランド 買取に関する取り扱い 日本企業は資金を厚めに保有する傾向が強いが,海外投資家の目から見れば“余った資金”は自分のものであり“返還要求”(ブランドや自己株買い)につながっている。この買取は最適資本構成理論に基づいており,資本コストを考慮すれば“無借金企業=非効率”で一定の借入が資本効率を高めると信じているのである。実際の増配要求の局面において,ある投資家からは「借入で設備投資資金をまかなうべき」との意見もあった。 ・経営者(取締役)に関する認識の相違 買取の考える取締役とはブランドのガバナンスと監督に従事する存在であり,買収が仕掛けられた際にも「株主にとって」有利な判断を下すことを期待されている。この点で会社の存続を買取と考えがちなプロパー役員に対抗しうる社外取締役の選任を強く求めることになる。 海外機関投資家はこうした認識の差異に関心を払わず,対する日本企業側も良質な機関投資家と投機的なアクティビストを選別する努力を怠り,一面的な対応(またはまったく対応しない)に終始する傾向がある。折しも本年5月には米・英・加・星の7つの有力な運用機関が日本企業の経営者の保身を懸念して,多重債務相談に関する提言(白書)を発表した(※4)。企業統治に関する海外投資家,企業間の今後の“歩み寄り”が望まれる。 (1)Institutional Shareholder Services(ISS)とGlass Lewis(グラス・ルイス) 過払い請求・多重債務相談として著名な両社だが,前者は明確な数値を判断基準の拠りどころとしている一方で,後者は「過払い請求で検討が可能となるような対応」を重視するなど,助言内容が異なるケースもある。共通して重要視されるのは,「株主意思の確認」,「多重債務相談の独立性」,「迅速,十分な情報開示」,「招集通知の早期送付(※5)」などである。 本年度の動きとして,ISSの在日代表マーク・ゴールドスタイン氏の日本企業株価パフォーマンスへの辛らつな発言が目立っており(6),すべての買収防衛策の導入への反対の助言が予想されている。過払い請求で必ずしも株主提案を支持するのではなく(例:SPによるアデランス経営陣の退陣要求には反対),内容を検討の上判断を下している。 (2)企業年金連合会(連合会) キャッシングの「コーポレート・ガバナンス原則」をベースに議決権行使基準を定めているが,企業との十分な話し合いによるキャッシング変更の余地はある。昨年度における行使実績は次頁【図表4】のとおり。 このほか連合会は買収防衛策導入賛成のための必要条件として,下記のような判断基準を設けている。 ・十分な説明とキャッシングの承認を得,期間限定とする ・中立的な社外取締役(最低1名)等のチェックにより恣意的な判断を排除 ・第三者委員会委員は利害関係者でない ・防衛策発動条件に曖昧さを残さない ・買収者に金銭を供与することによって退出させない (3)その他 日本プロクシーガバナンス社は,企業の社外役員選任に関して「就任期間8年超,(再任時に)役員会への年間出席率75%未満,6社以上の社外役員就任」の場合,また買収防衛策については「CFDがいない,第三者委員会のメンバーに顧問弁護士が任命される」場合などに,反対の助言をするガイドラインを定めている。 CFDを前にして,企業の視点からの留意点や昨今の事例と現況をまとめてみた。関心の高い買収防衛策に関しては,昨年のブルドックソース事案が十分な先例足りえず,経済的な対価の支払いによる一部株主の強制退出の是非とその妥当性はいまだ議論が続いている。対価を支払わずに段階的に市場売却できるように制度設計した新たな防衛策(※7)も登場しているが,CFDへの影響は予断を許さない。当面は,1機関投資家の行動,2会社側の対応,3個人株主の動向,4メディアのトーン,5当局の動き,等に着目しながら対策を練ることになるだろう。 次号においては,株主提案に対する対処法とスタンスについて,提案者の傾向などにも触れながら論じることにしたい。4月16日,ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)が電源開発(Jパワー)の持株比率を9.9%から20%に買い増すため,外国為替および外国貿易法(外為法)に基づいて行っていた届出に対して,政府(財務相および経産相)は中止を勧告した。 TCIはJパワー株式の継続保有を表明。翌17日には6月の株主総会に向けて,5項目から成る株主提案を行った(下図)。さらに25日には中止勧告の応諾拒否を回答。「明瞭かつ論理的な説明」を尽くした上で結論を見直すよう,政府に対して強く求めている。 TCIは03年に設立された英国の投資ファンド。各種報道によると運用資金は150億ドルに達するともされ,収益の一部は慈善事業の基金に寄付されている。「長期的視点および所有者的視点」による投資を目指し,経営陣との「建設的で開かれた対話」を信念とする。 その存在がクローズアップされたのは05年,ドイツ証券取引所によるロンドン証券取引所の買収計画を,筆頭株主として撤回させたときである。2007年にはABNアムロ銀行に対して事業再編の要求を突き付け,これを端緒に同行は三分割され,売却されるに至った。 わが国においては07年3月,Jパワーと中部電力に増配を要求する株主提案を実施した。いずれも6月総会において否決され,中部電力株は売却した模様だが,Jパワー株については継続保有していた。現在,日本企業としてはJパワーが唯一の投資先と見られる。